ログイン
8月のカレンダー
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
最近の日記
全体の新着
各月の日記
ユーザーRSS
Powered by
YouMaySayImaDreamerButImnotTheOnlyOneさんの公開日記
12月16日
07:59

「無題」

 私が交通事故で下半身不随となった時、父は加害者に向かって

「嫁入り前の娘を身障者にして、この責任は一生取ってもらいますぞ」

と激怒した。すると相手の男は

「そのつもりでおります。ぼくにお嬢さんをください」

と物静かに言って深々と頭を下げたのだった。

この男が、私の夫である。
一日中、ベッドに寝たっきりの私を夫はよく面倒をみてくれる。

血の気の失せた青白いわたしの二本の脚を、回復を早めるためだ、と言って一生懸命マッサージしてくれ、そっと接吻までしてくれるのである。

------

 私はこの夫の献身的な努力にすっかり感激し、結婚したというわけだ。

わたしは夫を愛するようになると同時に、夫に対して申し訳ない気持ちで一杯だった。

「こっそり浮気してもいいわよ」

私が言うと、夫は決まって

「何を言うんだ。ぼくの愛しているのは君だけだよ」

怒ったように言うだけだった。

「そんなつまらないこと考えるくらいなら、これを飲んでぐっすり眠ることだね」

私は、夫が作ってくれる特製の睡眠薬を飲んで眠ることになっていた。

交通事故の後遺症には、まず心の安静が第一だと言われていたからである。

------

 それからわたしの体は、自分でもはっきりわかるくらい急激に衰えていった。

そして夫の看病ぶりは、ますます手厚く、不自由なわたしの体を文字通り一日中、やさしく撫でさすってくれるのだった。

その夜、遅く帰って来た夫は、いつになくウキウキした気分で、しかもそれを無理に押し殺したような奇妙な表情で

「ねえ君、ぼくはこれから重大な用があって出かけなければならない。この薬を飲んでゆっくり休みたまえ。
病気の君にはショックすぎる話なのでね。詳しいことは、もう少し君の病気がよくなってから話してあげようね。」

そう言うと、いつもより色の濃い飲み薬を私の枕元に置いて、そそくさと出かけて行ったのだった。

------

 その薬を一気に飲んだ私は、自分の体が、ぐっぐっと深い海の底に引きずり込まれていくのを感じた。

その白濁した意識の中で、耳元のラジオが夫の名前を言っているのに気がついた。

それは夫の運転していた車が若い女をはねて重傷を負わせたというニュースであった。

私は結婚してから初めて、その見知らぬ女に激しい嫉妬を感じた。

しかしもうすべては終わりであることを、私自身が一番よく知っていたのだった。

<了>

------






、………なんだか、怖い?


公開日記トップへ